薬剤師のケースレポート日誌

国内外の医薬品有害事象に関する報告をデータベース化する試みです。

アバタセプト:肺間質影の増悪

アバタセプト投与後に肺間質影が増悪した関節リウマチの1例

日本臨床免疫学会会誌Vol. 35 (2012) No. 5 p. 433-438

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被疑薬:アバタセプト(代表的な商品名▶オレンシア)

症例

 

55歳時にRAおよび間質性肺炎を発症。.間質性肺炎は副腎皮質ステロイド大量療法で改善。RAは多種の疾患修飾性抗リウマチ薬およびインフリキシマブに対して抵抗性。タクロリムス(TAC)が有効であったが難治性の掻痒感と下痢のため中止。ABTの国内第III相試験に参加

症状

 

ABT投与2日目から白色痰が出現.痰培養は陰性であり投与13日後に胸部CTを施行。2ヶ月前に比して間質影の増悪がみられたため,臨床試験は中止

疑われた

有害事象

ABTによる間質性肺炎の増悪以外に,TAC中止による間質性肺炎の増悪,RA増悪による間質性肺炎の悪化,ウイルス感染の関与なども考えられた

その後の経過

関節炎に対しABT投与27日後にプレドニゾロンを2 mg/日から10 mg/日に増量した.ABT投与44日後に胸部CTを再検した結果,間質影は改善傾向

新規抗リウマチ生物学的製剤であるABT投与後に間質性肺炎が増悪した症例はこれが最初の症例報告

(関連)リウマチに対する生物学的製剤

 

インフリキシマブ:Bio-free remission

関節リウマチに対するインフリキシマブによるBio-free remissionの検討

整形外科と災害外科Vol. 61 (2012) No. 2 p. 204-207

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対象薬:インフリキシマブ(代表的な商品名▶レミケード)

症例

 

関節リウマチに対しインフリキシマブ投与により臨床的寛解(DAS28の基準で寛解)が6カ月以上維持され,患者の同意を得が得られ,投与を中止し後,1年以上経過観察を行った6例

結果

 

Bio free remissionを1年以上維持できた症例は3例。

3年以上の長期寛解例2例はいずれもSteinbrocker stage II,罹病期間も比較的短い症例で,IFX投与1回目から寛解を獲得。またIFX中止前に,Booleanの寛解基準を6カ月以上満たしていたものもこの2例のみ

考察

長期にBio free remisionを継続する要因として,発症早期で,骨破壊の進行がなく,DASよりも厳格なBooleanの寛解基準を満たすIFXの著効例であることが示唆

(関連)リウマチに対する生物学的製剤

(参考)リウマチに対する生物学的製剤②

(関連文献①)Discontinuation of adalimumab after achieving remission in patients with established rheumatoid arthritis: 1-year outcome of the HONOR study. Ann Rheum Dis. 2013 Nov 28PMID: 24288014

(関連文献②)Discontinuation of infliximab after attaining low disease activity in patients with rheumatoid arthritis: RRR (remission induction by Remicade in RA) study. Ann Rheum Dis. 2010 Jul;69(7):1286-91 PMID: 20360136

インフリキシマブ:粟粒結核

インフリキシマブ投与中に腸結核による回腸直腸瘻を合併した粟粒結核の1例

日本臨床外科学会雑誌Vol. 73 (2012) No. 7 p. 1722-1726

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被疑薬:インフリキシマブ(代表的な商品名▶レミケード)

症例

 

症例は55歳,女性.慢性関節リウマチに対しインフリキシマブの投与。NSAIDs,プレドニゾロン,メトトレキサート,インフリキシマブ(2年間,8週に1度の計19回投与受けていた)

症状

 

全身倦怠感と採血上の貧血の進行を認め,下部消化管内視鏡検査を受けたところ,回腸末端の潰瘍性病変

疑われた

有害事象

生検の結果腸結核。胸部CT検査では全肺野に小粒状陰影を認め粟粒結核と診断

その後の経過

回盲部切除術と直腸瘻孔部の縫合閉鎖を行った.術後は正常便となり特に合併症なく17日目に退院

インフリキシマブ投与による結核感染の頻度は日本においては約0.3%で、投与開始から平均3カ月で発症するとされているが,最短1週間で発症したとの報告から,今回のように数年後に発症することもある.インフリキシマブが結核発症の危険因子であるのは周知の事実であるが,腸瘻を形成する症例は極めて稀。

(関連)リウマチに対する生物学的製剤

インフリキシマブ: ニューモシスチス肺炎

インフリキシマブ投与中に発症したニューモシスチス肺炎の一例

日大医学雑誌Vol. 69 (2010) No. 1 P 58-61

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被疑薬:インフリキシマブ(代表的な商品名▶レミケード)

症例

 

71 歳,関節リウマチ (RA) にて加療中の男性

infliximab (IFX) (260 mg) を毎月 1 回,約 1 年間投与

症状

 

発熱,呼吸困難のため入院

胸部 X 線にて,両側性の浸潤影を認め, 入院時より重症の低酸素血症のため人工換気を要した

疑われた

有害事象

胸部 CT における全肺野に及ぶ地図状のすりガラス陰影の出現により,Pneumocystis pneumonia (PCP) と診断

その後の経過

ST 合剤投与により速やかに臨床症状の改善

 

MTX, IFX 治療を行い免疫抑制状態となった患者にしばしば感染性肺炎や薬剤性肺炎による急性肺障害が発症する.長期に免疫抑制治療を行っている高リスク患者においては,鑑別診断として PCP を念頭に置く必要がある.また,発症予防としての ST 合剤の投与も検討すべき。IFNの投与を受けている本邦のリウマチ患者では0.4%でPCPの発症が報告されており、これは米国の0.012%の30倍に相当するという。

(関連)リウマチに対する生物学的製剤

インフリキシマブ:急性散在性脳脊髄炎(ADEM)

インフリキシマブ治療中にEpstein-Barrウイルス再活性化にともなって急性散在性脳脊髄炎を発症した1例

臨床神経学Vol. 50 (2010) No. 7 P 461-466

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被疑薬:インフリキシマブ(代表的な商品名▶レミケード)

症例

 

31歳女性

クローン病に対してインフリキシマブ投与

症状

 

投与開始11カ月後に無菌性髄膜炎を発症し一時軽快したが,その後に体幹失調や球麻痺が出現。嚥下障害,呼吸困難。

血清のEpstein-Barrウイルス(EBV)抗体は既感染パターンを示し,髄液・血液PCRにてEBV-DNAを検出

疑われた

有害事象

急性散在性脳脊髄炎(ADEM

その後の経過

ステロイドパルス療法を反復し症状は改善

抗TNF-α抗体製剤の副作用による脱髄が報告されているが,本症例は抗TNF-α抗体製剤投与中のEBV再活性化によって惹起されたADEMと考えられた。インフリキシマブの使用中に発症した中枢神経の脱髄については抗 TNF-α 抗体製剤自体による副作用のみならず,EBV の再活性化にともなう ADEM の可能性についても考慮する必要がある。

(関連)リウマチに対する生物学的製剤

インフルエンザワクチン:慢性炎症性脱髄性多発神経炎

インフルエンザワクチン接種後に増悪した慢性炎症性脱髄性多発神経炎の1例

日本内科学会雑誌Vol. 102 (2013) No. 4 p. 963-965

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被疑薬:インフルエンザワクチン

症例

 

71歳,女性.3年前に両下肢遠位のしびれを生じたが軽快した

症状

 

インフルエンザワクチン接種18日目より両下肢筋力低下,感覚障害が出現し増悪,歩行困難

疑われた

有害事象

インフルエンザワクチン接種後に慢性炎症性脱髄性多発神経炎

その後の経過

免疫グロブリン大量療法とステロイドパルス療法が著効

 

ビルダグリプチン:首下がり症候群(dropped head syndrome:DHS)

DPP-4阻害薬が原因として疑われた首下がり症候群の1例

日本内科学会雑誌Vol. 102 (2013) No. 6 p. 1464-1466

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被疑薬:ビルダグリプチン(代表的な商品名▶エクア)

症例

 

87歳,男性,糖尿病に対してDPP-4阻害薬のvildagliptin50㎎/日の導入

症状

 

導入後1カ月程で歩容の不安定化から杖歩行となり,約半年で頸が常時前屈位となった。血清CK値の軽度上昇に加え,頸部MRIで頸半棘筋および頸板状筋に一致してT2高信号域を認める。

疑われた

有害事象

ビルダグリプチンによる薬剤性の筋障害に伴う首下がり症候群

その後の経過

同薬を中止して3週間程で症状は改善し,杖なしで歩行可能となった.

※首下がり症候群(dropped head syndrome:DHS)は,頸部筋群の機能異常から頸が常に垂れ下がった状態を示す病態である